インタビュー : 先人からの贈り物を次世代に〜生みの親に聞く【1】

道具を使いこなすには、発明者が何を思ってそれを作ったのか、その思想を理解することが近道。そこで、usp Tukubaiの生い立ちを、生みの親である當仲氏に語ってもらった。

USPの生い立ちやusp Tukubaiについて語る當仲寛哲氏

usp Tukubaiにバリューはない?

Open usp Tukubaiがとうとうリリースされましたね。でもTukubaiの面白さや凄さって、コマンドだけパッと見ても分からないですよ。何なのでしょうか?

まずUSPのコマンドって何だろうっていう話です。面白い部分も多少ありますけど、基本的にコマンドひとつひとつは地味な印象を受けると思います。不思議なことにUSPのコマンドそのものにはバリューはほとんどないんですね。

コマンドは道具で、シェルスクリプトは料理のレシピ。道具が揃うと色んなレシピが作れるし、レシピが進むと、こんな道具があれば便利ってことで相互に進化します。やりたいことは、コマンドをオープンにすることより、そのコマンドを使ってどんなアプリケーションが書けるのかということで、今後それをオープンにしていくことが一番の主眼です。

実はOpenUSP 評価版っていうものを2年前に出したんですけど、誰も振り向きませんでした。バリューの意味が伝わっていなかったんです。コマンドそのものにバリューがあると勘違いされていたから。伝えなきゃいけないのは、コマンドのバリューではなく、シェルスクリプトのバリューなんですね。

コマンドを作ったり、データの配置の仕方、書き方のお作法、OSの使いこなし……、それに他の様々な最新技術との繋ぎ合わせ方、そういうもの全体でバリューなんです。Open usp Tukubaiを使うことでどんな効果があるかとか、その裏側にはどんな工夫があるかとか、マネージメント、教育、ガバナンス……と順番に伝えていきたい。その第一のステップがOpen usp Tukubaiなんです。

とはいえ、そうやって商売のノウハウになっているものを何もかも開示してしまうと、自身の仕事がなくなってしまうのではないかと思うのですが。

コンピューティングっていうのは技術の積み重ねで成り立っているので、オープンになったところで誰もがLinuxやFreeBSDを一から書けるわけではありません。勉強の題材を提供しただけで全てわかってしまうほど、コンピューティングは浅い技術ではないと思うんですね。

だからUSPのコマンドがオープンになったってUSPのすることがなくなっちゃう、なんてあり得ません。むしろ、ますます関心を持ってもらえるようになって、色んな人が色んなことを考えて、同じやり方で仕事をする人が出てきて……結果的に我々も活性化します。

そもそも自分が作ったっていう感覚は全然ありません。

自分のものではないと?

強いて言えば、先輩がもう一段石を積み重ねる前に力つきてしまったから、僕が代わりに石を積んでおこう、と。そういったところで貢献出来ればいいと思っています。

僕はOSやシェルを発明しなかったんですよ。ただ先人達が作ってきた物の上で、あーでもないこーでもないと、ちょこっとやっただけ。その、ちょこっとやった物をクローズドにするなんて、メンタリティ的によくないでしょ。オープンにしてくれたから僕らが勉強が出来たわけです。

インタビュイー

當仲寛哲(とうなか・のぶあき) : 1966年生まれ、兵庫県出身。株式会社ダイエー在籍時に、UNIXシステムを再勉強し感銘を受ける。そこで学んだUNIX的発想を活かし、当時年間数百億円費やしていた社内システム維持費を数十億円に削減させ、社長賞を受賞。2004年独立し、ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所を創立。現在に至る。

USP MAGAZINE Vol.4「特集1 ついに始動Open usp Tukubaiプロジェクト第二章 先人からの贈り物を次世代に」より加筆修正後転載。

usp Tukubaiユニバーサル・シェル・プログラミング研究所の登録商標。

Last modified: 2014-01-13 00:00:00